これからの少年野球・少年スポーツの新しい選択肢(脱・長時間練習から考える地域コミュニティとの接点)

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秀岳館高校でのサッカー部の生徒に対する暴力の様子が動画でリークされた事件を受けて、「暴力は指導に不要で、あってはならない」ということが指導の現場には未だに浸透していないのかと思い、非常に暗澹たる気持ちです。今月発売された「スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか(著:島沢優子)」を読めば、これはサッカーに限らず、野球や他の競技でも未だにそうした体質を改善できずにいる学校やチームがあろうことは想像に難くありません。昔に比べれば大分減っているだろうとは思いますが。

こうしたこともあってか分かりませんが、近年は少子化も相まって少年野球人口の減少を報じるニュースも見られます。東京都内の私の近所の小学生チームも試合を実施にするに十分な人数が集まっていない状況です。最近は特に東京では中学受験をする人が増えて、小学校高学年でチームを脱退する子供もいるという話も聞きます。最近の小学生は昔に比べて忙しい、ということだと思います。こうした状況下で、今後も多くの子どもたちに野球の楽しさを知ってもらうために、どうするべきでしょうか。私は、週に1日、3〜4時間程度の練習のみ行うチーム、しかもその限られた時間の中で他のチームともしっかり競えるチームが地域に必要とされているのはないかと考えています

短時間練習の3つの大きなメリット

長時間練習を行うチームがあってもいいと思いますが、短時間練習のチームが存在するメリットはとても大きいと考えています。具体的には、以下の3点です。順番に説明していきます。

  • 中学受験との両立が可能で、野球を辞めずに済む
  • 限られた時間での主体的で効率的な練習
  • 地域社会との接点の拡大(大人も参加しやすい)

中学受験との両立が可能で野球を辞めずに済む

「本当は勉強一色にしたくないが、塾の模試などで休みがちになればチームメイトに迷惑がかかってしまう。そうなって気まずくなるくらいならキレイに辞めてしまった方がいい。」そうやって野球などの習い事を制限する人がいるとすれば残念でなりません。真剣に野球に取り組んでいるご家族からすれば、「大事な試合を模試などで定期的に休む人がいればチームの士気が下がる」と感じる人もいるでしょう。それを否定するつもりはありません。ただ、野球か勉強か、選択肢が2つしかない現状は変えるべきであり、短時間練習チームのニーズは既に一定数あると思っています。

限られた時間での主体的で効率的な練習

「張り子の虎」で勝つ

「短時間練習=優勝を目指さない・半分お遊びのようなものになる」だと思いますか?私は全然違うと思います。フィジカル面の強化は自主練でも十分可能なので、すべてのスポーツにおいてそのような構図は成り立たないと考えています。その中でも特に野球は体同士が接触するスポーツではなく、スタミナも比較的勝敗に関係しないので、より当てはまらないと考えています。私の高校は、野球推薦もない高校で、練習もグランドを使えるのは週に2、3日、それも放課後19時には学校を出るという決まりがあり、練習時間はかなり短い方だったと思います。それでも高校生時に甲子園に出場経験のある監督の「野球は『張子(はりこ)の虎』で勝てる」という言葉を信じ技術を磨いた結果、ベスト4という、甲子園出場が見えるところまで行けました。『張子の虎』は「中身が無いのに虚勢を張る」といったネガティブな意味で使われる言葉ですが、母校では抑えるべき要点(技術・戦術・メンタル)を抑え、形を整えれば十分闘えるようになるという意味で使っていました。毎日泥のように練習している強豪に勝つことができたというのは、私の中で大きな大きな成功体験になっています。

練習は絶対に短いほうがいい

そして、練習時間は短ければ短いほど効率的になります。私は中学生時代は土日は朝から晩まで練習していました。高校に入って練習時間が短くなって驚いたのは、練習の序盤に無意識に体力をセーブする癖がついていたことです。おそらく体力に自信の無い人ほど顕著に出ると思いますが、練習後半のノックやバッティング練習でいいところを見せないと試合に出れないので、前半の基礎練習でできるだけ疲れないように無意識に手を抜いてしまっていました。この癖のせいで、高校の練習では不完全燃焼感が強く、短時間の練習でしっかりと力を出し切ることができるまで時間がかかりました。どっちが成長にとって効率的かは言うまでもありません。

「でも、本当にそれで優勝できるのか?」は子供ファーストじゃない

うは言っても本気で勝利を目指せば絶対的に時間が足りないよね、と思われる方も多いでしょう。それはその通りです。例えば、細かいランダウンプレーやサインプレー。相手チームの意表をつく作戦を全て封じるにはそれなりの練習が必要です。短い練習時間でマスターすることは困難です。試合で相手チームにしてやられるでしょう。しかし、やられてから、「あれを防ぐためにはどうすれば」と考えて練習をすれば、その効果は言われままにこなす練習とは違うものになります。これが子供にとって重要な学習のプロセスです。こうした子供の成長ファーストな取り組みに変えていくには、一発勝負のトーナメント戦よりもリーグ形式の大会を増やしていくべきでしょう。勝利至上主義は子供が失敗・反省し次に向けて対策を考えるという成長のプロセスを阻害してしまいます

スポーツの役割(サード・プレイス)

そもそも、生活をほとんど100%コミットしてスポーツの打ち込むのは、スポーツのあり方の1つに過ぎません。スポーツは必ずしも人生の一時期に集中的にやるものではなく、生涯を通じて人生を充実させてくれるものです。一時期に集中的にやるのもいいですが、燃え尽きて、「高校卒業以来もうやっていません」という人を見ると寂しいですし、それは本来のスポーツの役割を果たしているのかと疑問に思います。自宅でもない、学校・職場でもない、居心地の良い「第三の場所(サード・プレイス)」の存在が重要とも言われている中で、日本のスポーツ界の主流である「受験前に引退」制度は、中学受験・高校受験・大学受験という精神的にプレッシャーのかかる人生の局面において、その役割を放棄しているとも言えます。

スポーツは他になにか(学業など)と両立してこそ価値を増す

成功体験は、大学の準硬式野球部でもありました。硬式野球部ではなく準硬式野球部を選んだ理由は、監督・コーチがおらず学生だけで主体的に練習メニューから試合での戦術などを決められることに魅力を感じたからでしたが、その準硬式野球部の中においても一つ疑問だったのが「就活より部活の試合を優先」という決まりでした。自分が就活するタイミングになってこの決まりの廃止を提案し、全会一致で廃止されました。廃止を提案した理由は「プロを目指すわけでもないのに、就活を疎かにするのは本末転倒」「現役時には部活に集中し、(就活に失敗した場合は)就活浪人して翌年に就活に専念する、というのも1つの考え方だが、両方を両立してこそ、(それを達成するためのタイム・マネジメントなど)それぞれ価値の高いものになるはず」ということでした。後者に関して、「現役時には部活に集中」は、逆に甘いとも思います。社会人になれば、職場や家庭(自分や親兄弟含む)、自分の趣味など、色々なことを常に同時並行で両立していかなければなりません。就活優先OKにして臨んだリーグ戦は優勝で終えました。

地域社会との接点の拡大(大人も参加しやすい)

最後に、地域スポーツの支え手の話をします。土日祝日のフルコミットが求められる場合、それに対応できる人は限定的とならざると得ません。(家族がいればなおさらですが)独身であっても、「土日祝日全部取られるのはちょっとなぁ、、」と思ってしまう人も多いでしょう。曜日を限定するなどして時々顔を出すだけでは、毎日来ている他のコーチの指導方法に異議を唱えることも難しく、やりがいも半減してしまうかもしれません。考えすぎかもしれなせんが、こうしたことが指導者層の新陳代謝を弱め、指導には暴力が必要と考えるのが当たり前の世代からの意識改革が進まない一因にもなっていないでしょうか?一方で、練習が週一回3、4時間だけならどうでしょうか。参加する子供の親や、地域の八百屋のおじさんも、「それぐらいならいっちょ協力してやろうじゃないの」と思える時間の長さではないでしょうか。

理想はOBの寄付による運営

現在、学校教師の働き方改善(超勤時間の短縮)の動きを背景に、中学などの部活をアウトソーシングする方向に世の中が向かっています。チームに所属するために費用が必要になってくるとしたら、私はこれに反対です。スポーツの垣根は低い方がいい。私の大学の野球部は部費がゼロで全額OBからの寄付で成り立っていました。現役の選手は一年生時から、寄付のお願いを第一の目的としつつ、自身の関心のある業界で働くOBを訪問することで、早くから将来を考えるきっかけになっていました。少年野球においても、同じようなエコシステムを作ることができれば、子供たちにとっても、居場所を求めるOBにとっても、Win-Winなチームになりうるのではと思います。

働き方改革とのリンク

かつての均質・単一な労働者を想定していれば良かった時代は終わり、それぞれの様々な事情・バックグラウンドに対応した働き方を許容する働き方改革が進められています。選手像も同様で、子供にとっての野球の位置付けも多様化しました。100%コミットできる人しかできないスポーツのままでは未来はありません。社会に出れば、子育て・介護など、家庭の状況に応じて早く帰らなければならない人などと協力しながら仕事を進めなければなりません。多様な子供が集まるチームを作ることができれば、社会に出てからも大いに役立つのではと思います。

声をあげよう

私が提唱するような、短時間だけど本気で勝利を目指すチームがもし近くにあったら、、そう思う方がいれば声をあげてください。この記事にいいねをつけるなりTwitterで拡散するなり。近くに同じことを考える人が複数いれば大きな動きになるかもしれません。私自身、チャンスがあればそういうチームを作ってみたい、監督やコーチとして率いてみたいという気持ちがあります。私が直接携わることがなくても、そういう様々な子供の受け皿になろうとするチームが増えればいいなと心から思います。

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