【野球】投げる時のグローブの位置(スローイングの起点を作る)

イップスの技術的克服

こんにちは。野球大学のヤスです。

これまでこのブログではイップス論を論じてきました。主に送球のリリース時のイメージのズレに着目して解説してきました。一方で、安定した送球のためには、そのリリースまでの過程も大切です。バランスよく全身で投げなければならない。難しい体制から投げれば暴投が多くなるのは当然です。しかし実際には全然難しい体制では無いのに、むしろ余裕すらあるのに暴投をしてしまうこともあります。

今日はそうした送球ミスをしてしまうことを防ぐための実践的な考え方を紹介します。重要なのは投げる動作の前に起点となる別の動作を意識的に作ることです。手の動きだけに意識を集中させないという点でイップス対策にもなります。

f:id:zattieee:20210313015539j:image

巨人OB川相昌弘氏の送球動作の「起点」

『ベースボールインテリジェンス 実践と復習の反復で「頭を整理する」』(川相 昌弘著)から引用します(下線部等は僕が付したものです)。

人間の体の原理を考えると、体から離れたところで動作をするよりも、体の中心で動作を起こしたほうが力を発揮しやすい。(中略)

だから、ゴロを捕ったときも、一旦は体の中心に寄せて、そこから体の外に向かって枝分かれしていく。不安定な体勢で打球をさばいたときでも、まずは体の中心に寄せる。味方の送球が横に逸れたときであっても、この動きを習慣づけておけば、すぐに体勢を立て直せるはずだ。極端な話をすれば、頭の上で送球を受けたときに、その位置でそのまま持ち替えるのは至難の業だろう。やはり、一度は体の中心にボールを収める動きが入ってくる。 私の場合は、胸に「ドン!」とぶつけるぐらいの勢いで、強く引き寄せていた。強くぶつけることによって、スムーズに枝分かれすることができるのだ。枝分かれのための〝スイッチ〟と言ってもいいだろう。自分の中で、意識していたわけではないのだが、気づいたらこのような動きを取り入れていた。

ときには、胸への引き寄せを二度入れることもあった。たとえば、強烈なショートゴロを捕ったときに、ファーストがまだベースに入り切れていないことがある。そのときには、足でステップを踏みながら、グラブとボールを持った手を胸の前で二度ほど合わせることによって、下半身と上半身の動きを調節していたのだ。ファーストが入るまで動きを止めて待っていては、こちらのリズムが崩れてしまう。

送球は上半身と下半身が絡み合う複雑な動きであり、歯車が狂うと悪送球に繋がります。一連の1つの動きとしてスローイングを行うには、その起点を明確にすることでリリースまでのリズムを一定にすることができます。余裕があるケースでは、一旦体の緊張が解けてしまうことが暴投の原因になります。起点を作ることで、緩みを締め直し、いつものスローイングに持っていく。キャッチボールの時からこうした起点からの一連の動きを意識をしていればより効果的です。上記引用の通り、川相氏はドンっと強く胸を叩く動きを起点にしていたようですが、その方法・意識は人それぞれだと思います

f:id:zattieee:20210313012048j:image

(↑)『ベースボールインテリジェンス』から抜粋

なお、川相氏は、体の中心に引き寄せてから「枝分かれ」させると述べていますが、外に分かれていくというイメージの中には、過去の投稿で説明したように、視界の外でリリースしなければならないことを無意識に表していると僕は思っています。

ヤクルトOB宮本慎也氏のスローイング

さらに、この「枝分かれ」よりブレないやり方があると主張するのが宮本慎也氏です。左手を相手の方に向ける動作は「いろんな動きが出てきてしまう」から、「グローブは投げ手にくっつけておいて」「投げるときに離れればいい」としている。

以下、トクサンTVの元ヤクルト宮本慎也とキャッチボール。暴投しない人はこう投げる。から抜粋した画像

(↓ダメな例)

f:id:zattieee:20210313010753p:image

(↓良い例)

f:id:zattieee:20210313010731p:image
f:id:zattieee:20210313010740p:image

この動きは今日のテーマであるフィニッシュまで安定性を高めることの他にも、左肩をしっかり入れてリリースポイントまでの距離を作る意味もあります。実際、左手を相手に向けた時は前につんのめるような投げ方になっています(宮本氏は動画内で若干オーバーにフォームを崩しています)。

宮本真也氏のスローイングの起点となる動作の隠れた意味

宮本氏にとっての起点動作は、上記のとおり、右手をグローブの中に入れたままトップの位置まで持っていく動作です。この投げ方を強く推奨したいです。宮本氏がご自身でおっしゃっている、左手と右手を左右に割る動作には不確実性が伴うということに加えて、あと2つ素晴らしい点があります。

①体全体をねじるのでリズムよく投げられること

グローブに手を入れたままテイクバック方向に持っていくと、体がねじれて左肩が入るので、自然に連動した送球モーションに入ることができます。腕に意識が行き過ぎるとうまく投げれないとも言います。これまでの記事で散々腕の動きを意識させる話をしましたが、この動きを入れることでまた腕を無意識の世界に戻してあげるイメージでしょうか。

②意外と深いテイクバックを自然に作ることができること

深いテイクバックは、リリースポイントを手前にするための重要な動作です。この前後の動きの意識は、「上から叩く」「肘を上げる」といった上下を意識した指導の仕方では、抜け落ちてしまっている可能性があるので指導者は注意が必要です。深いテイクバックを作って、体の横あたりのリリースポイントでスローできれば、結果として自然と肘は上がるので、敢えて肘上げを意識させる必要はないと思います。

参考:ヤスの投げ方

参考までに、僕自分の投げ方をよく考えてみると、ベースは宮本慎也氏と全く同じ投げ方で、余裕があるケースでは投げ手の方に引いて置いてある左手グローブの中にもう一度投げ球を握った右手を入れ直すことでリズムを取ってからスローイングに入っています。

坂本勇人選手のプレーは派手じゃない

サムネにもしている坂本勇人選手はこうした動きをすごく丁寧にやっているように見えます。正直僕はこうやってグローブを胸に置きながら投げる方が単純にカッコいいと思って高校生時代は行っていましたが、これには上記のように、(人によって微妙に異なる)スローイングを行うまでのプロセスに関わっており、安定したスローイングに実は役立っているということです。

宮本氏「1番うまいのは西武・源田壮亮だが、、」

宮本氏が源田選手、坂本選手の守備を語っている動画があります。(↓)

『坂本』か『源田』真似すべき遊撃手は⁉︎今後球界を代表する選手と守備上達の極意を教えます!!【守備理論】

西武・源田選手のプレーを見ていると、あまり左手の意識が無いように見えます。宮本氏は動画内で、「坂本の方が派手に見えるが、真似をするなら坂本」であるとしていて、坂本選手の方が、より基本に忠実と評価しています。なお、宮本選手は「1番うまいのは源田選手」としています。源田選手は天才肌なのだと思います(と勝手に言い切ってしまうと、努力しているであろう源田選手に怒られそうです)。源田選手のグローブの使い方なども、宮本選手にとってはかなり特殊だそうで、いつか源田選手が語る守備論を聞いてみたいものです。

コメント

  1. 杉本 隆 より:

    tksugimoto2@gmail.com

    上記、宮本慎也選手の「グローブは投げ手にくっつけておいて」「投げるときに離れればいい」を実戦することで、大学時代からの15年に及ぶイップスを完全に克服することができました。
    今、野球が楽しくて仕方ありません。
    大変貴重な記事を掲載いただきましてありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました