【野球】(イップス論②)なぜ必要以上に前で送球しようとするのか(誤イメージの形成原因)

イップスの技術的克服

こんにちは。野球大学のヤスです。

前記事では、イップスの技術的な原因について概要を説明しました。簡単に言えば、リリースポイントのイメージが間違っていて、前(投球方向)すぎるということでした。


この記事では、なぜリリースポイントを前の方に想定してしまうのか、その要因について下記①②③に分けて説明していきます。

要因①指導法による勘違い

「前で投げろ」が生む誤解

「耳の近くを通して、できるだけ前の方でリリースしろ」「前の方で叩け、指で弾け」とまるで視界の中にリリースポイントがあるかのように実演されながら指導されることは少年野球の現場で珍しくありません。しかし、これらはあくまでイメージです。実際には、球を押したり、腕をしならせたり、スナップを効かせたり、という動作は手がカラダの横に到達しリリースするまでに終わっていることであり、それはプレイヤー自身には見えない位置にあります。

下図(リリース直後)を見てください。実際には、腕のライン(青)や手首(赤)はカラダの傾斜(緑)とほぼ一直線上にある。指導者は「前でリリース」を実演するならば、上半身を前傾させて体の傾斜ラインの延長線上にリリースポイントがあるということを正確に教えるべきです。

https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/970687/attachment/藤川球児に投球フォームがそっくりな小野/

次に下図を見てください。イップスの方や近距離を投げるのが苦手な方は、リリース時のイメージが内野手の送球後のようになっていないか確認してほしい。これはリリース時ではなく、軽く投げた際に腕が止まるところです(リリースはもっと背中方向。目の前でしっぺするようなイメージでリリースするのは実際とは乖離しています。なお、その「イメージ」で投げること自体は必ずしも否定できません。あくまで実際はそうなっていないということです。

「前で投げろ」の真意

投げる方向へ力を生む動きは大雑把に以下の4つがあるが、「前で投げろ」というのは後半2つの力をしっかり使えという意味であり、1.の腕の位置を操作することではないはずです。

  1. 腕を引いてカラダの横のリリースポイントまで。ストロークは案外短い。(黄)※図の黄色線は肩の回転による分のストロークも含んでしまっている。
  2. 肩の回転。骨盤と同様にできるだけ最後まで開かないようにして、(出所を見えにくくしつつ、)回転のキレを増したい。(青)
  3. 上半身の前傾運動。これにより腕とカラダの力を発揮できる位置関係を保ったままよりリリースポイントをホームに近づけ、リリースまでのストロークも長くなる。(緑)
  4. 右足から左足への体重移動で勢いを加える。(3)と同じ効果も。(赤)

(↑)【スローあり】千賀投手の圧倒的ピッチングフォーム(「クーニンズ緑川」より抜粋)

要因②残像による勘違い

スポーツ一般に、イメージと実際の動作に乖離があることは珍しくない。プレイヤー各々の感覚は千差万別であり、それぞれのイメージがあります。しかし、スローイングの難儀な点は、他人のプレーを見ていても、手のフォロースルーの残像のせいで本当にカラダの前の方で放しているように錯覚しやすいことです。

バッティングではスイングを鏡で見ながらイメージと実際のズレを確認・修正できるが、スローイングにおいては、実際に球を握ってスローイングするところを鏡やビデオで見る機会が、特に野手の場合はかなり少ない。ズレに気付きにくい理由かもしれません。

(↓)坂本選手をお手本に!守備の間⚾︎(読売ジャイアンツ)から抜粋。線は筆者追記。

要因③なぜ『置きに行く』のか(ダーツ投法仮説)

プレイヤーは送球時には的を見ます。その視界にリリースポイントは入りません。見ることができるのは、リリース後の球と手の動きのみです。ゴルフのショット、サッカーのシュート、バレーボールのアタック、バトミントンのスマッシュといった動作では、スローイングとは違い、プレイヤーはインパクトの瞬間を見ながら行うのでイメージとズレません。しかし、スローイング動作のインパクト(リリースの瞬間)は視界の外にあります。

一方で、同じ投げる競技でもミリ単位のコントロールが必要(速度は不要)のダーツではリリースポイントが見えるところに置かれています(力は入れにくい位置)。人間は正確に動作するには、視界の中に置きたくなるのではないでしょうか。正確にスローイングをしようとすればするほど、ダーツのように目に見えるところで行いたくなってしまう。精神的に萎縮するために筋肉が緊張して手が縮こまるのではなく、正確性を求めると本能的にリリースポイントを見ようとしてしまいカラダの前にポイントを設定するのではないか。これが、いわゆる「置きにいく」動作なのではないでしょうか。

(↓)ダーツのリリースポイント(目線カメラ)

これらの要因がリリースポイントを勘違いさせているという仮説を紹介しました。これが僕の思う送球イップスの正体です。

克服するためには、視界の外にある正しいリリースポイントで投げる練習をすれば良いのです。次の記事では、その方法について具体的に見ていきたいと思います。

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