「コンタクトまでの距離をしっかり作る」とは
この記事では言いたいことは、そもそも距離をしっかり作る意識が足りない人が多いということです。トップ・割れの瞬間の腕の捕手側への引きが弱く、投手側の腕がつっぱらずに緩みっぱなしでは強い打球は生まれません。スローイングでいうとテイクバックを蔑ろにしているようなもので、それでは手打ちになります。以下、「コンタクトまでの距離はどういう要素によって長くできるか(=「割れ」を大きくできるか)」と「上半身のトップのつくるタイミングのパターン」を見ていきます。
距離を構成する要素
距離を作るベース
それは腕の長さと体の柔らかさで決まります(あくまでベース)。例えば、両方持っているのが大谷翔平選手です。筋力の強さもありますので、足を上げたり反動をつけることなく、これらのベースだけでかなりの飛距離が出ます。(↓)大谷選手の「割れ」の瞬間のスクリーンショット。右腕の可動域が広く、腕も長いのでバットをキャッチャー側に置いておくことができ、コンタクトまでの距離をしっかり作れています。
逆に、体の柔軟性と手の長さを両方持っていないのは中田翔選手です。特に体が硬くどうしても左足のカカトが着地して振り出すタイミングで右手が大分下りてきてしまいます。トップが浅い。手打ちっぽくなってしまいます。(↓)中田選手の「割れ」の瞬間
振り出しに行くタイミングでバットがすぐに出てきてしまうので距離が確保できていません。手が早く出て前に游ぐのを抑えるために、構えている時点ではバットを一塁ベンチ側に倒し(手首がぐっと入ります)、さらに窮屈を覚悟で左足の壁を崩さないことでカバーしているように見えます。(さらに手の押し込みの強さ・器用さが中田翔選手にはあります。)
距離を増やす方法
以上がコンタクトまでの距離を作るベースの部分です。これにプラスアルファで、距離を長くする方法はあります。しかし、いずれもデメリットを伴います。大谷選手のように肉体的なスケールが大きければこうしたオプションは不要かもしれませんが、そうでない場合は、(筋力トレーニング以外では)こうした動きをを取り入れないと飛距離が伸びません。
⑴体をしならせる(深いトップの位置からバットを遅らせて出す)
コンタクトまでの距離アップのために、体の反動を使います。落合博満氏や西武ライオンズの山川選手は、トップから振り出す時に膝が割れても手とバットはまだ出てきません。この大きな大きな「割れ」は強力な反動を生みますが、タイム・ロスがあるとも言えます。結果、一般的に直球に弱くなるため豪速球投手が多いメジャーではあまり見られない動きです。(↓)落合選手の「割れ)
⑵投手方向に強く大きく踏み込む
ストロークの距離アップのために、体重移動を使います。森友哉選手、柳田悠岐選手、A・ロッド選手などに特徴的です。ステップ幅が広くなると体の回転が鈍くなるため、スイング時に後ろ足を前に引き寄せる動きがセットで必要です。筋力も必要で体もブレやすいので難易度の高い打ち方です。(↓柳田選手の左足の引き寄せ。ちなみに、2021年第一号HRの写真です。)
⑶バットのヘッドを遠回りさせる
ダウンスイングではなくレベルに、投球の軌道にバットを入れるようにスイングすることで、ヘッドが走る距離を伸ばす。体に近いコースを捌くのは難しいのが難点です。落合博満氏、中村剛也選手、清原和博元選手などに特徴的。最近は元プロで2014年まで横浜ベイスターズで一軍コーチも務めた蓬莱昭彦総監督(世田谷西シニア)や亜細亜大学・大阪桐蔭出身のyoutuberミノルマンがダウンスイングへのアンチテーゼとして紹介しているように思います。最近は一流選手の実際のスイングを動画で簡単に見ることができるようになったので、従来のような大根切り的ダウンスイングの指導は減っていくでしょう。
トップを作るタイミングは大きく2つ
次に、距離を作るため手を捕手側に引くタイミングに着目します。「トップをいつつくるか」というテーマです。大きく分けると2つのタイプがあります。
⑴足を踏み出すタイミング(前足と引き手が、同時に逆方向に動く)
例:スタントン、ケングリフィーJr.、落合、福留
2つのことを同時に、しかも逆方向に行うので難易度は高いです。しかも投手とのタイミングを図りながら。体が前に行く反動と手を引く動きのタイミングを合わせることでより大きな「割れ」が作れるため、より力感なくスイングスピードを上げることができ、力みが要らないので変化にも強い。
『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(大利 実著)によると、明石商業高校の狭間監督はこのタイプを「理想」として、「バッティングは、空間と空間の勝負です。空間から向かってくるボールと、自分からボールに向かっていく空間。この2つの空間を合わ」せること、だとしています。また、「フリーバッティングでも、ピッチャーを近づけることはしない。「速球対策」で近くから投げることは多くの学校がやっているが、それをやると、間のないバッターになる。近い距離で打つときは、あえて緩いボールを放り、リリースからインパクトまでの時間を感じられるようにしている。」と。何となく言いたいことは分かりますが難易度が高いことは確かです。このタイプはゆったり構える打者が多くセンスを感じさせるのでカッコいいです。センス系打法とも言えます。万人には勧められない、と僕は思います。
⑵早めに手を引ききって(あまり)動かさない
例:浅村、大谷、A・ロッド、鈴木誠也
こちらは早めに、多くの場合足を上げるタイミングで手を捕手側に引き切ってしまいます。後は前足のステップを投球に合わせることに集中してバンっと腕を出すだけというイメージです。実際にはステップの反動で「割れ」はより深まりますが、ステップと同時に手を引いた場合に比べると(割れ)は小さくなります。しかし、動きがシンプルなので、確実性は増しますし、習得はより容易と言えます。最近はウェイトトレーニングの影響などで体格のいい選手が増えたので反動をつけなくても強く触れる選手が増えました。今後の傾向としてはこちらのタイプが増えていくのではないでしょうか。(↓日ハム近藤選手。足を上げた時にはもう腕を引いている)
⑴⑵どちらがいいか
個人的には⑵が無難です。中学野球・高校野球では⑴が多いように思います。私も⑴の指導を受けました。腕を捕手側に早く引いている打者は少ない。一方で⑴タイプの打者が皆タイミングを上手く合わせてちゃんと「割れ」を作れているかというとそうではない。多くのバッターが浅いトップで手打ちになっています。また速球に立ち遅れることも多く、バタバタとしたスイングになってしまいがちです。そうであれば、もっと捕手側に早く引いて備えることを意識した方がいい。甲子園球児を見ていても前側の腕が振り出しのタイミングになっても緩みっぱなしになっているのは気になります。要はしっかりと弓を引いた形を作れていればどちらでもいいですし、⑴⑵に当てはまらない打ち方ももちろんあるとおもいます。が、⑵の方が弓を引く感覚を早く掴めるのではと思います。一方で⑴タイプはロマンがありますしハマった時は威力を発揮するので、画一的に⑵を推奨する必要はありません。
大阪が誇る強打の履正社高校の岡田監督は先ほど紹介した本の中で以下のように、早くトップを作る(腕を引く)ことの重要性及びそのための練習方法を教えてくれています。
弓矢を引いた状態を作るために、近い距離(およそ 12メートル)でのフリーバッティングを行う。「どれだけ始動を早くできるか。先に動いて、振り出す準備を作っておく。言葉で言ってもわからないので、体感させています。ほとんどの高校生は手がトップに入るのが遅いので、ストレートに差されてしまうのです」「さぁ、いらっしゃい」をどれだけ作り出せるか。あえて、バッテリー間を短くすることで、準備を早くする習慣付けをしている。
足と手を両方同時に逆方向に動かす打法ではこの「準備」がどうしてもバタつきます。うまくできない人はさっさと⑵を試してもいいのかなぁとも思います。同じ高校野球の監督でもこんなに考え方が違うのは面白いですね。
「立ち遅れる」の解決法はステップのタイミングだけではない
ここで念のため確認しておきたいのは、「立ち遅れ」への対処についてです。これをステップのタイミングの話と狭く捉えてしまってはダメです。この記事で説明してきた通り、上半身のトップの準備が遅れているという意味もあるということです。ここを理解していないとセンス系打法に固執することになり、上半身の弓を引いた状態が作れないまま、1・2の3でタイミングを合わせるだけの手打ちになってしまいます。打球も弱く変化球にクルクル回る結果になりますので注意が必要です。
次の記事では、原則②「力が入るところで球とコンタクトすること」を解説していきます!
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