この記事では、バッティングにおいて重要な4要素のうち、「脱力」と「ポイント」をセットで解説していきます。この2つを同時に説明するのは、それが表裏一体の関係にあるからです。先に脱力について説明します。※サムネの森友哉選手は2021年シーズンの第二号です(パ・リーグTVより)。
なぜバッティングにおいて脱力が必要か
バッティングのみならずあらゆるスポーツにおいて、脱力・リラックスの重要性は同じです。しかし、大きく2つの分類ができます。力を発揮するその瞬間までは脱力して最終的には力を入れるタイプと、最後まで脱力したままプレーを終えるタイプです。
例えば、ボクシングは最終的には力を入れないと硬いパンチになりません(ボクサーの方で「違うよ」という方がいらっしゃれば指摘お願いします)。ピッチングはどうでしょうか。ピッチングも最終的に手首・指は固めないと球に力を伝えられないという別の記事で紹介したとおりです。
バッティングは最後まで力んではいけないタイプの運動
バッティングは最後まで、バットがボールに当たる瞬間も力んではいけません。理由を説明していきます。
理由①球に力を伝えるのは手ではなくバット
まず、ボクシングやピッチングと違って、手から直接球に力を伝えないので、「固める」動作が不要です。ボクシングやピッチングは、「脱力(=スピード)」と「力み(=固さ〈エネルギー伝達の効率〉)」がトレードオフになっており、どちらかを求めるとどちらかを捨てることになる。だから、力みはできるだけ最後の瞬間だけ、という結論になります。一方でバッティングは、固さ〈エネルギー伝達の効率〉は、バットの固さが担保してくれているのです。よっぽどふにゃふにゃにバットを掴んでいればダメですが、速く振ろうとして自然に入る力で十分です(結構入ります)。つまり、バッティングの場合は、全力で脱力してスイングの「速さ」を追い求めればいいのです。最後にグッと力を入れる動作がそもそも不要なのです。
理由②力むと、ヘッドが良いところで返らない
ヘッドスピードを全力で高めるために絶対に必要なのは、ヘッドを返す動作です。それでは、ヘッドスピードを最大化するにはどこでヘッドを返すのがベストでしょうか。「ヘッドを返す」というのはイコール右手が左手を追い越す動作です(右バッターの場合。以下同)。手が体の中心よりも左側では、右腕がヘッドを返す前にすでに伸びきりかかっており左手を追い越すための「伸ばししろ」がありません。よって上手くヘッドを返せません。右腕が伸びきる前の余裕がある、「おへその前」がスイングスピードを最大化する「ヘッド返し」が可能な位置です。そして、力むと右手がすぐに伸びきってしまうのです。ヘッドを走らせるためには、最後まで腕を柔らかく使わないといけません。
「ポイント」よりも「脱力」を先に説明した意味
ここまでの説明で気づいた方も多いと思いますが、一番強く打てるポイントは、一番ヘッドを走らせることができる「おへその前」です。脱力してヒジを柔らかく使わないとそもそもヘッドが走るポイントは生まれない。だから、まずは脱力ということです。念の為ですが、体は回転するので、ポイントはいつもベースの真上あたりではありません。アウトコースならベースの上あたりですが、インコースならもっと投手寄りになります。
良いポイントを理解させるために、指導者がバットを押さえて、打者が一番力が入るポイントを探すことがあると思います。これは半分正解、半分不正解です。球を「押す」という意識は基本的に不要なので「不正解」です。例外(正解)は、ヘッドを返す前に球があたってしまった場合(=詰まった場合)の対処時で、その時には押し込むという作業をすることになります。良いポイントを探すのは、実際にスイングの速さが反映されるロングティーが一番です(できれば置きティー)。
感覚的だが分かりやすい指導方法「球の外側を叩く」
西武ライオンズの中村剛也選手は打球を飛ばすコツとして「球の外側を叩く」という表現を使っています。動画中に森本稀哲選手も言っていますが、私の世代は「球の内側を叩いてインサイドアウトにバットを出せ」ということを強調されすぎた傾向があります。球の内側を叩く意識では、確かに三振の数は減り、もしかしたら打率も上がるかもしれませんが、本来の一番飛ぶスイングとは程遠いものになってしまいます。
その他の指導例①前の手を逆方向に戻す
明石商業高校の狭間監督の説明をそのまま引用したいと思います。概ね、上記の説明と同じ主旨ですが、左手の感覚、球を呼び込む感覚にまで言及しています。
「ボールをとらえるインパクトで必要な技術は、グリップ側に支点を作ることです。支点を作ることによって、バットのヘッドが走り、ボールを押し込めるようになる。右バッターであれば、左手を自分の体のほうに戻す。戻すことで、右手が前に出て、バットの押し込みを使える(写真 =前手を戻すイメージ)。この右手が追い越す動きがないと、ヘッドを利かせたバッティングができません」
「ヒジを伸ばして打とうと思っているうちには、インサイドアウトで打つのは難しく、ボールを体の中に入れることもできない。ヒジはボールをとらえたあとに、自然に伸びていくものです。」
『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』大利 実著 における明石商業高校の狭間監督の言葉
その他の指導例②ミノルマンの説明(言語化がうまい!)
参考までに、野球YouTuberミノルマンの説明を紹介します。高校時代ぐらいから既にスマホなどが当たり前にあった世代でしょうから、実際のイメージの乖離が少なく、これから野球界を引っ張る指導者だと期待しています。私もこの記事を書くにあたってヒントをもらいました。
- バットを持っている以上、インパクトの瞬間に100%の力を手に込めても、バットは長さがあるので100%にならない
- インパクト時にガンって力入れる時代は終わり
- (インパクト時は)バットは勝手に走っているというイメージ
- どこで力を入れるかではなく、どこで加速させるか
以上、脱力とポイントについて、説明しました。中村剛也が「自然に力が入ってスイングスピードが上がるところで打てれば勝手に(球は)飛んでいく」と言っている意味が理解できたのではないかと思います。外から叩けと言われると、ドアースイングになるのでは、インサイドアウトはどういう意味なのかという疑問も出てくると思いますので、また次の記事で解説したいと思います。
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